こころの病気を知る

摂食障害

疾患概念

単なる食欲や食行動の異常ではなく、1)体重に対する過度のこだわりがあること、 2)自己評価への体重・体形の過剰な影響が存在する、といった心理的要因に基づく食行動の重篤な障害です。摂食障害は大きく分けて、神経性食欲不振症(AN;神経性無食欲症、神経性食思不振症、思春期やせ症)と神経性過食症(BN;神経性大食症)に分類されます。

摂食障害の発症には、社会・文化的要因、心理的要因、また生物学的要因が複雑に関与しており、以下に説明するように、遺伝子-環境因子の相互作用による多因子疾患と考えられています(表1)。



社会・文化的要因


前記したように、摂食障害の心理的特徴の中核として、体重や体形へのこだわりや体形への不満があることを述べました。その点、近年のわが国における患者数増加の背景には「やせを礼賛し、肥満を蔑視する」西欧化した現代社会の影響がうかがわれます。つまり、スリムをもてはやす社会、文化の影響です。

心理的要因

従来、否定的な自己評価あるいは低い自尊心(自己評価)が摂食障害全体と、強迫性パーソナリティ傾向や完ぺき主義がANと、また、中でもとくに抑うつや不安などがBNならびにむちゃ食い障害の発症と関連があると報告されており、こうした心理的特徴が発症危険因子あるいは準備因子のひとつとして考えられます。

家族環境


両親の別居や離婚など両親の不和、あるいは両親との接触の乏しさ、親からの高い期待、偏った養育態度も発症推進的役割を果たすといわれています。家族のダイエット、家族その他からの食事や体形および体重についての批判的なコメントなども病前体験として、発症に関与している可能性が考えられています。

遺伝的要因

しかしながら、前記の心理・社会的要因が強いものは誰でも摂食障害となるわけではありません。発症に至るのはそのうちのごく一部です。近年、摂食障害への罹患感受性に遺伝的要因が重要な役割を果たしていることが家族内集積の研究や双生児研究で示されてきました。

精神症状・行動異常

【AN】
ANでは、体重が減少しているにもかかわらず、太ること、肥満になることへの強い恐怖に基づく種々の行動が認められます。太ももやおなかなどといった、体の一部分の変化に異常な執着をもつことが多く、そのために外出が困難になることさえ見受けられます。

また、体重が著しく減少しているにもかかわらず、肥満恐怖のための食事制限、あるいは自己誘発性嘔吐や下剤の乱用をともなう場合があります。また行動の特徴として隠れ食い、盗み食い、万引きなども認められます。

【BN】
BNの中核的症状は、むちゃ食いの反復と、それを解消し体重増加防止のための絶食や食事制限、あるいは自己誘発性嘔吐や下剤の乱用です。むちゃ食いは、だらだら食いと異なり、短時間に大量に食事を摂取し、しかも食事摂取に対するコントロール感が失われていること、この二つが最大の特徴です。

AN、BN両者に共通していますが、過食に嘔吐など代償行為をともなった例では、ともなわない制限型に比べて自傷行為、自殺企図、アルコールや薬物乱用などの自己破壊的行為や万引き、性的逸脱などの衝動行為をともなう例が多いようです。



身体症状


ANは、体重の著明な低下や低栄養状態などに合併する種々の身体症状を呈します。また嘔吐や下剤乱用などにともなう身体所見にも注意が必要です。一方BNは一般に身体的には重篤ではありませんが、AN同様、排出行為によって生命の危険を脅かすような合併症をきたしている場合もあります(表2)。

治療を始めるにあたっては患者さんやご家族と治療者(医療スタッフ)の間に「この治療者と一緒に病気を治していくことができそうだ」という信頼感が得られることが不可欠です。

外来治療


身体管理を要する緊急入院以外、外来治療が原則です。

【AN】 ANなど低体重の場合、3食を規則的な時間に摂取させ、少量から徐々に段階的に増量させていく方法が基本となります。そのため家族、とくに身近な存在である母親の協力は不可欠です。患者さんには食事摂取に対する種々の心理的抵抗が出現しますが、その際の患者さんの不安の内容、考えや気持ちを丁寧に聞いていき、食事摂取による肥満恐怖を実際に取り除いていく作業(簡単に体重は増えないことを確認していくこと)が求められます。それには外来受診時の定期的体重測定が最も適していると言えるでしょう。慢性例では個々人のペースに合わせて目標を設定しますが、外来治療に進展が見られない、あるいは身体的悪化が認められる場合、入院治療が適応となります。

【BN】 BNに対する数カ月間の認知行動療法、あるいは対人関係療法が無作為対照試験で有効であったと報告されています。Fairburnらが普及させた認知行動療法は、BNの患者さんには特有の認知の歪みがあり、それが症状を維持・強化しているという考えです。たとえば、完ぺき主義や低い自己評価、激しい感情の状態への不耐性、対人関係の困難さが、体型や体重への過剰なこだわりを助長し、厳格な食事制限を行うものの、"食べたい"という自己の自然な欲求からのプレッシャーに抗しきれず、その反動としてむちゃ食いが生ずること。またその結果、肥満恐怖から排出行動を起こし、それはまた罪悪感といった低い自己評価を生み出していくという、「過食―排出行動の悪循環」を引き起こすのだ、という認知行動モデルです。

入院

入院治療の適応条件を掲げます。

  • 著明な、もしくは急激な体重減少が認められる
  • 外来治療努力にも関わらず体重増加がない、あるいは、むちゃ食い/嘔吐/下剤乱用が持続している
  • 重篤な身体合併症(低カリウム血症、心臓異常所見、糖尿病の合併)がある
  • 重篤な精神疾患の合併を伴っている(うつ病、強迫性障害、境界性人格障害、自傷行為など)※
  • 治療環境として問題のある家族環境あるいは心理社会的に不適切な環境である

   ※精神科専門施設での入院治療が必要

AN患者の入院目標の一例を挙げてみました。

  • 健康な体重の回復(適切で、安定した)
  • 時間、方法、および内容における正常な食行動の確立
  • 体重、ボディ・イメージ、肥満恐怖、やせの追求、などに関する主要な歪んだ認知の修正
  • 精神的葛藤の中心となっている問題の把握とその解決
  • おもな内科的合併症の解決、もしくは治療の開始
  • 合併する精神的疾患の治療
  • 家族関係・対人関係の改善
  • 年齢相応のアイデンティティの確立
  • 再発予防プランと再入院の基準の設定

また経口摂取が不十分であれば、経鼻チューブによる経腸栄養剤投与が有用です。一方、経静脈性高カロリー栄養法(IVH)は、著明な消化管機能障害・機能低下以外には原則として施行しないほうがよいとされ、施行してもあくまでも短期間にとどめることが肝要です。

薬物療法

ANに対する特効薬はありません。急性期の精神症状に抗精神病薬が使用されることがありますがまれです。慢性期でうつ状態をともなって上腹部症状が強い場合などスルピリドを使用することもありますが、副作用に乳中分泌があり注意が必要です。
また統合失調症や気分障害に広く使用されている非定型抗精神病薬(オランザピンなど)は病的な肥満恐怖の軽減効果が報告されています。

また、上腹部の不快感やもたれ感に胃排出能改善薬(クエン酸モサプリド、ドンペリドン、六君子湯、人参湯など)、便秘には緩下剤(刺激性下剤の使用は短期間に限ること)が対症療法的に用いられています。

一方、BNにおいては、むちゃ食いや過食の衝動などの軽減目的でSSRIが使用され、効果があったと報告されています。しかしSSRIなどの薬物治療だけで寛解に至ったという報告はありません。漫然と投与を継続しないことが重要です。

摂食障害は、病気治療に適切に取り組めば必ず回復しうるものです。それには現在の状態を3つの側面に分けてみることが役立ちます。

つまり、1)食事や身体に関すること、2)考え方、気持ち、感情に関係すること、そして3)の対人関係に関すること、です。これらの点を自分自身で振り返り、少しでも心身の状態を回復させてほしいものです。回復が難しいと思ったら専門医を早めに受診することです。

食事や体に関すること


身体を元の健康な状態に戻すために以下のことを始めてください。

規則的な食事の確立
規則的な食事が始まると、わずかな量でも急に水分が貯留して、1週間で体重がkg単位で増える場合があります。この時に「やっぱり私は太る体質だ」といって、規則的に食べるのをやめてしまわないことです。そのまま規則的に食事を初めていくと数日間で水分は抜け、体重は少し下がって、再び、安定した体重の増え方になっていくことが多いようです。とくに、過食・嘔吐がひどかった人や、下剤を乱用していた人たちでは浮腫が著明となるので、最初の変化に惑わされないことが大切です。専門医を早めに受診し、異常がないか確認する必要があります。

また、この時に、食事のたびに体重計に乗って、太るのではないかと体重をチェックしたい欲求が必ず出てきますが、頻繁に乗らず、決まった曜日の決まった時間に乗るようにすると、不安の度合いは軽減していきます。これは肥満恐怖を克服するために重要なことです。これは体重計に乗れば乗るほど、その行為自体により肥満恐怖は増す、ということを防ぐための「不安への対処法」のポイントです。

正常な空腹感、満腹感の獲得
同様に体重が増えていく過程では、適切な行動を身につけていくことを邪魔する肥満恐怖に基づく行動がどうしても現れてきます。
たとえばANの人では、食事時間に1時間以上かかる、一皿ずつ順に空にしていくといった食べ方などです。こうした食べ方では食事の全体量は増えて行きませんし、正常な空腹感、満腹感は得られません。「三角食べ」をするなどして、できうる限り30分以内で終わらせる習慣をつくることです。

BNの患者さんの場合、むちゃ食いを止めようとするのではなく、その前提にある"食事制限"することをいかにして減らすかが鍵となります。とくに自己誘発性嘔吐を繰り返している限り、正常な空腹感、満腹感は取り戻せません。嘔吐に関して多くの患者さんは「過食を代償するものだ」と思っていますが、そうならないばかりか、これを続けていく限り病気から抜け出すことが困難となります。体に大変な害を及ぼしているので、専門医を早めに受診し治療を開始すべきです。規則正しい食事の獲得は、ANにもBNにもその回復に第一に必要となる基本です。

考え方、気持ち、感情に関係すること


患者さんには、治りたい自分と、病気のままでいたい自分の葛藤の中にいるのが普通であると述べてきました。病気のままでいたい気持ちに負けてしまうほど、この病気からの「誘惑」は強いわけです。こうした、病気を治したいという気持ちを邪魔するものの筆頭に「完ぺき主義」や「全か無か」的考え方があります。少しでも失敗すると"全て駄目だ"と考えたり、少しでも期待することから外れると全てを否定的にとらえたりする考え方です。やせて飢餓の状態になると、こうした考えが助長されるようです。否定的な気分が強くなるからです。治療者と一緒にこうした考え方の癖に気づいていくことはこの病気を治す手助けとなります。

対人関係に関すること


患者さんは自己主張したり、他人にものを断ったりすることが下手な場合が多いようです。過剰適応をしがちです。自己評価が低いと他人の評価に振り回されてしまいやすくなったり、あるいは完ぺき主義が強いと人前での失敗がよけいに怖くなり、自分の行動が狭まったりします。また前に述べましたが"全か、無か""100点か0点か"といった極端なみかたではなく、連続的なみかたを養うことが対人関係や社会生活でのストレスを減らす為に大切です。

摂食障害 松山市 心療内科 三番町メンタルクリニック

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